柳谷智宣のAI ウォッチ!
パーソナルOSとなった生成AIの「今の使われ方」──2022年の驚きは、2025年の当たり前へ
サム・アルトマンが指摘する「世代ごとの使い方の違い」を考える
2025年5月30日 09:00
世界に衝撃を与えたChatGPTの登場(2022年末)から約3年。この間、生成AIは目覚ましい進化を遂げ、ビジネスシーンからプライベートまで、社会へ広く深く浸透してきている。当初は一部の技術マニアや専門家、IT好きな人たちの間での熱狂に留まっていたものが、今や誰もが当たり前に生成AIを使うようになっている。
今回は、この約3年間(正確に言うなら2年半)における生成AIの使われ方の変化と、2025年現在の実態について、データや事例、サム・アルトマン氏が指摘する「世代ごとのAIの使い方」を交えながら深掘りしていく。
黎明期の熱狂と戸惑い、そして現在進行形の社会実装。その変遷を辿ることで、私たちが今後どのようにAIと向き合っていくべきかのインサイトが得られるかもしれない。
ChatGPT登場時は熱狂と懐疑の交差していた
2022年末のChatGPT公開以降、筆者はその可能性に魅了され、活動領域の大半をAI関連にシフトさせた。生成AIが秘めるポテンシャルを確信し、その情報を積極的に発信し続けたものの、当初、周囲の反応は驚くほど冷ややかだった。
AIの原稿をチェックしてくれている担当編集者さえ、実はAIに触れたことすらないというケースもよくあった。一部の先行的なユーザーと社会全体との間には、AIに対する認識や温度差が明確に存在していた時期だ。
年が明け、2023年3月に発表された「GPT-4」は、革命的とも言える進化を遂げていた。文章生成能力が飛躍的な向上し、より複雑な指示への対応や、マルチモーダルで画像の認識までできるようになった。しかし、技術的なブレークスルーに対する期待とは裏腹に、一般社会の反応は依然として鈍いままだった。
「生成AIはしれっと嘘をつく」と、ハルシネーションをあげつらうような論調が先行し、自身の名前をAIで検索して誤った情報が出力された、とSNS上で不満を表明する人々が後を絶たなかった。ChatGPTが流行っているようだからと触ってはみるものの、活用できずに使うのをやめたという人も多かった。当時のAIリテラシーの低さが、新しい技術を受け入れる上での大きな障壁となっていたのだ。
2024年頃からAIが日常へと溶け込みはじめた
2024年を迎える頃から、生成AIを取り巻く空気は変化し始めた。AIが徐々に一般層へと広がりを見せ始めたのだ。その兆候は、SNS上での言及の増加にも顕著に現れている。
以前は、AI関連の投稿といえば技術的な話題が中心だったが、「AIに転職活動の相談をした」「プロポーズの最適な言葉をAIと考えてみた」といった、よりパーソナルで日常的な用途に関する内容が目立つようになってきた。これは、生成AIを利用することの心理的なハードルが下がり、多くの人々にとって身近なツールとして認識され始めたことを示唆している。
日本リサーチセンターの調査によると、日本国内における生成AIの利用率は、2024年6月の15.6%から2025年3月には27.0%へと着実に増加。特に2024年12月から2025年3月の3カ月間においては7.9ポイントという大幅な伸びを記録した。なかでもChatGPTの利用率は顕著で、2024年6月の12.3%から2025年3月には20.8%へと、9カ月間で8.5ポイントも上昇し、最も広く利用されるAIプラットフォームとしての地位を確固たるものにしている。
さらに、2025年3月時点での男女年代別の利用状況を見ると、興味深い傾向が浮かび上がる。生成AI全体の利用率では、30代を除いて男性が女性を上回っており、特に20代男性(40.6%)と40代男性(37.8%)で高い利用率を示している。
また、30代女性は3カ月で18.8ポイントという驚異的な伸びを示しており、30代男性よりも利用率が高くなっている。いくつか理由は想像できるが、30代男性も生成AIを使い始めた方がよい。時間がないのは理解できるが、それだからこそライバルとの差別化になるだろう。
業務レベルの品質に到達した最新AIモデル群
生成AIの急速な普及と利用シーンの拡大は、その根底にある技術の目覚ましい進化によって支えられている。
単に面白いとか便利かもしれない、といったレベルを超え、専門的な業務にも耐えうる能力を備えたAIモデルが次々と登場している。特に、OpenAIのChatGPT、AnthropicのClaude、GoogleのGeminiといった生成AI御三家はものすごい速度で開発を進め、頻繁に新機能をリリースしている。
2025年5月にリリースされたばかりの「Claude 4」は、現時点で最も高性能な生成AIモデルのひとつだ。特に「Opus 4」の実力は圧倒的で、SWE-benchで72.5%という業界最高水準のスコアを叩き出し、長時間かつ高文脈のコーディングやエージェントワークフローで他を寄せ付けない性能を見せつけている。コンテキストウィンドウは200Kトークンと長く、ハイブリッド推論モードやツール連携による拡張思考により、即応性と深い推論を状況に応じて切り替えて、高品質な出力を生成してくれる。
OpenAIの最新フラッグシップモデル「o3」は、従来のo1から大幅な進化を遂げた推論タイプのAIだ。SWE-bench Verifiedで69.1%、競技プログラミングELOで2706という高いコーディング能力を持っている。画像解析や外部ツールを思考プロセスに組み込むことで、従来困難だったマルチステップの課題解決や未知問題への汎用的な対応力を実現した。
GoogleのGemini 2.5 Proは「Thinking Model」として設計された最新世代のAIだ。推論力とマルチモーダル処理能力が際立っており、1Mトークンの巨大なコンテキストウィンドウを持ち、テキストや画像、音声、動画、コードリポジトリ全体を統合的に扱える。「Deep Think」モードによる高度な推論や、音声出力・感情認識、マルチエージェントツール連携などの新機能も導入された。
これらハイエンドAIモデルはいずれも、長大な文脈を維持しながら複雑な要件を分解、計画、実行するエージェント的なAIとなっている。この進化は、生成AIが単に人間と対話するだけの存在から、具体的な課題解決や知的生産を支援する強力なパートナーへと変貌を遂げたことを意味する。
もはや、すごいAIが登場したという驚きだけでなく、「このAIを業務にどう活かせるか」「生成AIを使っていかにマネタイズするか」という具体的な検討が可能な、まさに業務用レベルの品質が現実のものとなりつつあるのだ。
AIネイティブ世代は生成AIをパーソナルOSと捉えている
生成AIの進化と普及が加速する中で、その受け止め方や活用方法には世代間で顕著な違いが見られるようになっている。OpenAIのCEO サム・アルトマン氏が指摘するように、「平均的な20歳と35歳のAIの使い方の差は、驚くほど大きい」のが実情だ。
これは、かつてのスマートフォン(iPhone)が登場したときにも見られた現象と似ている。
若年層、いわゆる「AIネイティブ」とも呼べる世代は、新しい技術に対して抵抗なく、直感的に適応し、その可能性を最大限に引き出そうとする。一方で、中高年層は、これまでの経験や知識体系をもとにAIを理解しようとするため、適応に時間を要したり、活用範囲が限定的になったりする傾向が見られる。
実際、40代以上の世代では、AIを主に「検索エンジンの代替」や「文章の要約ツール」として捉える傾向がある。既存の作業を効率化するための補助的な道具という位置づけだ。それに対して、20代や30代は、AIを思考の壁打ち相手や意思決定の相談役、さらにはクリエイティブな発想を助けるアドバイザーとして活用する事例が増えている。
彼らにとってAIは、単なるツールではなく、より能動的に関わり、協働するパートナーのような存在になりつつある。アルトマン氏によると、学生世代に至っては、AIを「パーソナルOS」のように捉え、複数のファイルをAIに接続し、長期的な記憶を持たせ、プロンプトを仲間と共有しながら、学習や研究、日常生活のあらゆる場面で活用する動きが広がっているという。
このような世代間のAI活用スキルの差は、将来的には仕事における生産性の格差として、社会全体に影響を及ぼす可能性がある。そして、AIの社会への浸透は、もはやチャットインターフェースを通じた対話での利用だけにとどまらない。Microsoft OfficeのようなオフィススイートやZoom、Google Meetのようなビデオ会議へのAI機能の統合も進んでいる。
ほかにも、動画編集ソフトにおける自動編集や字幕生成、Eメールクライアントにおける自動分類や返信文案作成、CRMシステムとの連携による営業活動支援、IoTデバイスを通じた状況把握と自律制御、教育現場における個別最適化された学習支援、地方自治体における行政サービスの効率化など、ユーザーがAIの存在を意識することなく、その恩恵を受ける場面が急速に拡大している。
UIが前面に出ることなく、AIがバックグラウンドで静かに機能することで、AIはまさに「空気のような存在」へと変容し、社会の隅々にまで浸透していくことだろう。
AIを使いこなす能力が新たな競争力の源泉になる
生成AIという技術は誰でも利用できるが、その使い方、活用の深さによって、得られる成果には大きな差が生まれる時代に突入している。
かつて、インターネットが普及し始めた頃、「Google検索をいかに巧みに使いこなせるか」が、情報収集能力や知的生産の効率を大きく左右した。いわゆる「ググる」スキル次第で、得られる情報の質と量が変わったように、これからは「生成AIをいかに巧みに使いこなし、そのポテンシャルを引き出せるか」が、個人や組織の競争力を決定づける新たな分水嶺となることは間違いない。
この約3年間で、生成AIは黎明期の熱狂と混乱を乗り越え、着実に社会へと根を下ろし始めたと言っていいだろう。技術の進化は依然として加速度的に進んでおり、想像をはるかに超えるスピードで新たな可能性を切り拓き続けている。数カ月後には「GPT-5」が出るというのだから、眩暈がしそうだ。
重要なのは、生成AIという強力なツールを前にして、私たちがどのような問いを立て、どのような未来を描き、そしてどのようにAIと協調していくかとなる。作業を効率化する道具として使えるのはもちろんだが、知的探求のパートナーとして、創造性を増幅させる触媒として活用するのかどうかが、個人の成長や企業の変革を左右することになるだろう。
著者プロフィール:柳谷 智宣
IT・ビジネス関連のライター。キャリアは26年目で、デジタルガジェットからWebサービス、コンシューマー製品からエンタープライズ製品まで幅広く手掛ける。近年はAI、SaaS、DX領域に注力している。日々、大量の原稿を執筆しており、生成AIがないと仕事をさばけない状態になっている。